12月が近づくと「今年の現役トレードはどうるんだろう」とちなヤクだけではなく野球ファンがドキドキし始めます。
ドラフト会議はよく耳にしますが、「現役ドラフトってそもそも何?」と思っている方もいらっしゃるのでは。
今日は現役ドラフトについてまとめました。
現役ドラフトの基本概念
現役ドラフトとは?歴史と背景
現役ドラフトとは、出場機会に恵まれない選手の移籍活性化を目的として2022年より導入された画期的な制度です。まだ新しい制度ですね!
メジャーリーグベースボール(MLB)の「ルール・ファイブ・ドラフト」を参考に、日本プロ野球界でも中堅選手の移籍を促進し、新たな活躍の場を提供することを狙いとして誕生しました。
この制度の導入には長い議論の歴史があります。2018年7月の選手会臨時大会で議論が始まり、同年8月から選手会とNPBの選手関係委員会との間で事務折衝が続けられました。
そして2019年3月に選手会がNPBに正式提案したことで、実現への道筋が整いました。
興味深いことに、制度名も変遷を経ています。素案提出時は「ブレークスルードラフト」という名称でしたが、最終的に「現役ドラフト」として正式採用されました。この名称変更も、制度の本質である「現役選手の新天地での活躍」を表現したものと言えるでしょう。
事前に行われること
現役ドラフトの仕組みは、12球団それぞれが支配下登録選手を日本野球機構(NPB)に提出することから始まります。
この際、球団が選手本人に対象となることを通知するかどうかは球団の自由とされていますが、第三者への情報漏洩は禁止されており、厳格な秘密保持義務が課せられています。
NPB事務局は、12球団から提出された対象選手をまとめたリストを各球団に配布し、これが実際の指名対象となります。
リスト作成の基本ルール
- 各球団は2名以上の支配下登録選手を提出
- 2023年以降は追加ルールが設けられ、年俸5000万円以上1億円未満の選手をリストアップした球団は、5000万円未満の選手を追加し、3人以上をリストアップする必要があります
この仕組みにより、より多くの選手にチャンスが与えられるようになりました。ヤクルトスワローズファンの皆様にとって気になるのは、どのような選手がリストに載るかということでしょうが、この情報は当日まで秘密とされています。
非公開での実施
新人選手選択会議(ドラフト会議)とは大きく異なり、12球団が一堂に会することもなく、テレビ中継もない完全非公開のオンライン形式で実施されます。
この非公開性により、結果が発表されるまでファンや関係者は誰が移籍するかを知ることができず、大きなサプライズ要素を持つイベントとなっています。
ルールと基準
現役ドラフトには厳格なルールと基準が設けられており、すべての選手が対象となるわけではありません。これらの制限により、制度の趣旨である「出場機会に恵まれない選手の移籍促進」が保たれています。
対象外となる選手の条件
-
外国人選手
-
複数年契約選手
-
年俸5,000万円以上の選手(ただし、5,000万円以上1億円未満の選手は1名に限り対象可能)
-
FA権を取得・行使した選手
-
育成選手
-
前年シーズン終了後にトレードで獲得した選手
-
シーズン終了後に育成から支配下登録された選手
これらの条件により、主力選手や高年俸選手の流出を防ぎつつ、本当に新天地を必要とする選手たちにチャンスを提供する仕組みが整備されています。
移籍に関する重要なポイント
現役ドラフトで指名された選手が移籍を拒否した場合は、任意引退での退団となります。これは制度の実効性を担保する重要なルールです。
タイミング
現役ドラフトは毎年12月に開催され、球界のオフシーズンを彩る重要なイベントとなっています。
-
第1回(2022年):2022年12月9
-
第2回(2023年):2023年12月8日
-
第3回(2024年):2024年12月9日
このタイミングは、各球団がシーズンを振り返り、来季に向けた戦力構想を固める時期と重なっており、現役ドラフトの結果が翌シーズンのチーム作りに大きな影響を与えることになります。
現役ドラフト当日の実施方法
新人選手選択会議(ドラフト会議)とは大きく異なり、12球団が一堂に会することもなく、テレビ中継もない完全非公開のオンライン形式で実施されます。
この非公開性により、結果が発表されるまでファンや関係者は誰が移籍するかを知ることができず、大きなサプライズ要素を持つイベントとなっています。
次からプロセスを紹介します。私自身、いろいろな記事を読んでもよく理解できなかったので例を示しながら紹介しますね。
1巡目指名の複雑なプロセス(具体例で解説)
現役ドラフトの指名プロセスは、予備指名と本指名の2段階で構成される独特なシステムです。この複雑な仕組みを、現役ドラフトを想定した具体的な例で一貫して説明いたします。
予備指名の段階
まず各球団が、NPB事務局から送付された対象選手リストの中から獲得希望選手1人を議長に通知します。
- ヤクルト:阪神のA投手(27歳・左腕リリーバー)を希望
- 巨人:中日のB内野手(26歳・ユーティリティ)を希望
- 阪神:広島のC投手(28歳・右腕先発)を希望
- 中日:ヤクルトのD外野手(25歳・俊足巧打)を希望
- 広島:オリックスのE捕手(29歳・守備職人)を希望
- オリックス:ロッテのF投手(26歳・クローザー)を希望
- ロッテ:日本ハムのG内野手(27歳・長距離砲)を希望
- 日本ハム:西武のH投手(28歳・中継ぎ右腕)を希望
- 西武:ソフトバンクのI外野手(24歳・スピードスター)を希望
- ソフトバンク:楽天のJ投手(30歳・ベテラン先発)を希望
- 楽天:DeNAのK内野手(26歳・二刀流候補)を希望
- DeNA:ヤクルトのL投手(29歳・サイドスロー)を希望
暫定指名順位の決定
他球団から何人の選手が指名されたかで暫定指名順位が決まります。上記の例では以下のようになります:
各球団の被指名選手数:
- ヤクルト:2人(D外野手、L投手)
- 巨人:0人
- 阪神:1人(A投手)
- 中日:1人(B内野手)
- 広島:1人(C投手)
- オリックス:1人(E捕手)
- ロッテ:1人(F投手)
- 日本ハム:1人(G内野手)
- 西武:1人(H投手)
- ソフトバンク:1人(I外野手)
- 楽天:1人(J投手)
- DeNA:1人(K内野手)
暫定指名順位: 1位:ヤクルト(2人が指名対象) 2位:巨人(0人だが、同数の球団がないため、ドラフト順で2位) 3位以下:阪神、中日、広島…(2024年ドラフト2巡目の順番)
本指名の連鎖システム
ここからが現役ドラフト最大の特徴である「連鎖的指名システム」です。
指名の流れ:
- 1番目:ヤクルト(暫定1位)が指名
- ヤクルトが「阪神のA投手」を指名
- (予備指名通り)
- 2番目:阪神が指名
- A投手を出した阪神が次に指名
- 阪神が「広島のC投手」を指名
- (予備指名通り)
- 3番目:広島が指名
- C投手を出した広島が指名
- 広島が「オリックスのE捕手」を指名
- (予備指名通り)
- 4番目:オリックスが指名
- E捕手を出したオリックスが指名
- オリックスが「ロッテのF投手」を指名
- (予備指名通り)
- 5番目:ロッテが指名
- F投手を出したロッテが指名
- ロッテが「日本ハムのG内野手」を指名
- 6番目:日本ハムが指名
- G内野手を出した日本ハムが指名
- 日本ハムが「西武のH投手」を指名
- 7番目:西武が指名
- H投手を出した西武が指名
- 西武が「ソフトバンクのI外野手」を指名
- 8番目:ソフトバンクが指名
- I外野手を出したソフトバンクが指名
- ソフトバンクが「楽天のJ投手」を指名
- 9番目:楽天が指名
- J投手を出した楽天が指名
- 楽天が「DeNAのK内野手」を指名
- 10番目:DeNAが指名
- K内野手を出したDeNAが指名
- DeNAが「ヤクルトのL投手」を指名
- 11番目:ヤクルトが指名?
- L投手を出したヤクルトが指名するはずですが、ヤクルトは既に1番目で指名済み
- この場合、まだ指名していない球団のうち暫定指名順位最上位の球団(巨人)に指名権が移る
- 11番目:巨人が指名
- 巨人が「中日のB内野手」を指名
- (予備指名通り)
- 12番目:中日が指名
- B内野手を出した中日が最後に指名
- 中日が「ヤクルトのD外野手」を指名
- (予備指名通り)
1巡目結果まとめ:
- ヤクルト:阪神のA投手を獲得、D外野手とL投手を放出
- 巨人:中日のB内野手を獲得、放出選手なし
- 阪神:広島のC投手を獲得、A投手を放出
- 中日:ヤクルトのD外野手を獲得、B内野手を放出
- 広島:オリックスのE捕手を獲得、C投手を放出
- オリックス:ロッテのF投手を獲得、E捕手を放出
- ロッテ:日本ハムのG内野手を獲得、F投手を放出
- 日本ハム:西武のH投手を獲得、G内野手を放出
- 西武:ソフトバンクのI外野手を獲得、H投手を放出
- ソフトバンク:楽天のJ投手を獲得、I外野手を放出
- 楽天:DeNAのK内野手を獲得、J投手を放出
- DeNA:ヤクルトのL投手を獲得、K内野手を放出
2巡目指名の仕組み(同じ例の続き)
1巡目終了後、希望する球団によって2巡目指名が行われます。上記の1巡目の結果を受けて、2巡目がどのように展開されるかを見てみましょう。
2巡目の指名順決定
2巡目の指名順は、1巡目の指名順の完全な逆順となります。
2巡目の指名順(1巡目の逆順):
- 中日(1巡目12番目)
- 巨人(1巡目11番目)
- ヤクルト(1巡目1番目)
- DeNA(1巡目10番目)
- 楽天(1巡目9番目)
- ソフトバンク(1巡目8番目)
- 西武(1巡目7番目)
- 日本ハム(1巡目6番目)
- ロッテ(1巡目5番目)
- オリックス(1巡目4番目)
- 広島(1巡目3番目)
- 阪神(1巡目2番目)
1巡目後に残っている対象選手
1巡目で指名されなかった選手たちが2巡目の対象となります:
残存対象選手:
- ヤクルト:残り選手なし(D外野手、L投手が指名済み)
- 巨人:M投手(28歳・左腕中継ぎ)、N内野手(25歳・守備固め)
- 阪神:O外野手(27歳・代打の切り札)
- 中日:P投手(26歳・速球派右腕)
- 広島:Q捕手(24歳・若手有望株)
- オリックス:R内野手(29歳・ベテラン職人)
- ロッテ:S投手(27歳・変化球投手)
- 日本ハム:T外野手(26歳・パワーヒッター)
- 西武:U投手(25歳・先発候補)
- ソフトバンク:V内野手(28歳・スイッチヒッター)
- 楽天:W外野手(24歳・新人王候補だった選手)
- DeNA:X投手(30歳・ベテラン抑え)
2巡目指名の実際の展開
2巡目指名の流れ:
- 中日(1番目)
- 「巨人のM投手」を指名
- 左腕中継ぎが欲しかった中日の補強ポイントと合致
- 巨人(2番目)
- 中日にM投手を指名されたため、巨人の残り選手(N内野手)は指名不可
- 「楽天のW外野手」を指名
- 若手外野手の有望株を獲得
- ヤクルト(3番目)
- ヤクルトには残り対象選手がいないため、自動的に棄権
- ヤクルトの選手も指名対象から除外(ただし、既に残り選手なし)
- DeNA(4番目)
- 「広島のQ捕手」を指名
- 若手捕手の育成を重視するDeNAの方針
- 楽天(5番目)
- W外野手を巨人に指名されたため、楽天の選手は指名不可
- 「オリックスのR内野手」を指名
- ソフトバンク(6番目)
- 「魅力的な選手が残っていない」として棄権
- ソフトバンクの選手(V内野手)も指名対象から除外
- 西武(7番目)
- 「中日のP投手」を指名
- 速球派右腕を獲得
- 日本ハム(8番目)
- 「阪神のO外野手」を指名
- 代打要員として期待
- ロッテ(9番目)
- 残っている選手を検討するが「戦力として期待できない」として棄権
- ロッテの選手(S投手)も指名対象から除外
- オリックス(10番目)
- R内野手を楽天に指名されたため、オリックスの選手は指名不可
- 「DeNAのX投手」を指名
- 広島(11番目)
- Q捕手をDeNAに指名されたため、広島の選手は指名不可
- 残り選手から「西武のU投手」を指名
- 阪神(12番目)
- O外野手を日本ハムに指名されたため、阪神の選手は指名不可
- 最後に残った選手はほとんどいないため棄権
2巡目結果まとめ
2巡目で移籍した選手:
- 中日:巨人のM投手を獲得
- 巨人:楽天のW外野手を獲得
- DeNA:広島のQ捕手を獲得
- 楽天:オリックスのR内野手を獲得
- 西武:中日のP投手を獲得
- 日本ハム:阪神のO外野手を獲得
- オリックス:DeNAのX投手を獲得
- 広島:西武のU投手を獲得
棄権した球団:
- ヤクルト(対象選手なし)
- ソフトバンク、ロッテ、阪神(戦略的棄権)
最終的な移籍選手数:
- 1巡目:12人
- 2巡目:8人
- 合計:20人の選手が新天地へ
この例からも分かるように、2巡目は「より良い選手を求める球団」と「リスクを避けたい球団」の戦略の違いが明確に現れる段階となっています。
結果発表と移籍条件
現役ドラフトの結果は当日中にNPBがまとめて12球団分を発表します。
ただし、球団が指名された選手と連絡を取る必要があるため、発表が遅れる可能性もあります。発表されるのは移籍が決定した選手のみで、指名されなかった対象選手については非公開とされています。
移籍に関する重要な取り決めとして、選手契約を譲り受けた球団は、その選手が所属していた球団に譲渡金を支払う義務がないことが挙げられます。
これにより、球団は低コストでの戦力補強が可能となります。
一方、指名された選手が移籍を拒否した場合は任意引退での退団となるため、事実上の強制移籍システムとなっています。
引退での退団…ちょっとっドキッとしてしまいますね。
ヤクルトスワローズ歴代の現役ドラフト指名
歴代指名選手一覧と成績 移籍選手の成績と影響
ヤクルトスワローズの現役ドラフトでの指名選手とその成績を詳しく見てみましょう。
2022年(第1回現役ドラフト):成田翔投手
- 前所属:千葉ロッテマリーンズ
- ポジション:投手(左投左打)
- 入団時年齢:28歳
成田投手は左の中継ぎとして期待されましたが、2022年シーズンは一軍で2試合の登板にとどまり、3回1/3を投げて防御率5.40という成績でした。
残念ながら期待された活躍を見せることができず、移籍後わずか1年で戦力外通告を受けることとなりました。
2023年(第2回現役ドラフト):北村拓己内野手
- 前所属:読売ジャイアンツ
- ポジション:内野手(右投右打)
- 入団時年齢:28歳
小川淳司GMは獲得理由について「右打ちの内野手として、どこでも守れる。ショートでもセカンドでも守れる。どちらかというと、中距離から大砲っていうところに期待が持てるんじゃないかな」と語りました。
北村選手は2024年シーズン、オープン戦で16試合に出場し打率.296、5打点という好成績を残して開幕一軍入りを果たしました。そして7月6日の古巣・巨人戦では、代打で移籍後初となる本塁打を記録し、ヤクルトファンを大いに沸かせました。
2024年(第3回現役ドラフト):矢崎拓也投手
- 前所属:広島東洋カープ
- ポジション:投手(右投右打)
- 入団時年齢:29歳
高津監督は「対戦してきた中の投手としては非常に特徴のあるピッチャーだと思っています」と高く評価しています。矢崎投手は慶應大学時代に最速153km/hを記録した力投型の右投手で、救援もこなせる多様性が魅力です。
前年の2023年シーズンでは自己最多の54試合に登板し、抑えとして4勝2敗、24セーブ、10ホールドという素晴らしい成績を残しており、通算成績も149試合で8勝6敗、25セーブ、37ホールド、防御率3.65と安定した実績を誇ります。
ヤクルトの現役ドラフト戦略の特徴
これら3年間の指名を見ると、ヤクルトの明確な戦略が見えてきます。
- 2022年:左の中継ぎ補強(成田翔)
- 2023年:内野のユーティリティ補強(北村拓己)
- 2024年:右の中継ぎ補強(矢崎拓也)
高津監督は「現状先発が足りないのは明らかなことなので、リリーフを厚くするしかないと思っています」と語っており、投手陣の底上げが重要なテーマとなっていることが分かります。
歴代放出選手一覧と成績 放出選手のその後
現役ドラフトでは指名するだけでなく、ヤクルトからも選手を放出しています。放出された選手たちのその後の活躍も、ファンとしては気になるところです。
2022年(第1回現役ドラフト):渡邉大樹外野手
オリックス・バファローズから指名を受け、移籍。しかし1軍出場も1試合のみに留まり、10月5日に戦力外通告を受けます。その後、現役引退。
2024年からは、ヤクルトでスコアラーを務めています。
2023年(第2回現役ドラフト):梅野雄吾投手
2023年12月8日、現役ドラフトで中日ドラゴンズから指名され、移籍しました。
2024年6月2日のオリックス・バファローズ戦で1-1で迎えた延長11回裏に登板。三者凡退で切り抜け、12回表には中田翔の勝ち越し打で2-1で勝利し、移籍後初勝利を挙げました。
2024年(第3回現役ドラフト):柴田大地投手
2024年12月9日、現役ドラフトで東北楽天ゴールデンイーグルスに移籍しました。
2025年7月9日、ベルーナドームで行われた対西武戦で3番手のピッチャーとして登板し、2回無失点でプロ初勝利を挙げました。
まとめ
現役ドラフト制度は始まったばかりであり、今後さらなる改善と発展が期待されます。
ヤクルトスワローズとしても、この制度を効果的に活用し続けることで、チーム力向上と持続的な強化を図っていくことが重要です。
現役ドラフトで加入した選手たちも、神宮球場の熱い応援に包まれながら、新たな輝きを放ってくれることでしょう。
さぁ、今年の12月の現役ドラフトをドキドキしながら待ちましょう!
コメント